グローバル化の加速に伴い、金融の世界でもグローバル化の拡大が続いている。
各国は海外に流出する世界的な通貨の流動化に対する是正へ躍起だ。その日本の最前線を探ってみた。

今年10月末、香港保険業協会は「日本居住者が、香港において保険商品を購入希望した際に、顧客に対して日本の保険業法を告知し、理解と承認の一筆をとる事にて業法違反を回避するように努めること。」という勧告を香港域内の保険事業社に出した。

この保険業法186条とは、日本に居住している人が外国の保険に加入する為には内閣総理大臣の許可が必要という内容で、その海外の保険というものが、日本の保険と比べて著しく有利で、それと競合する為に国内の保険会社が儲からなくなってしまうようなものは、許可してはならないと明確に書いてある。この違反に対しては、50万円の過料(罰金)のみで、過去に適応された例はほぼ無いと言われている(ただし海外に日本人が直接赴いて海外の保険に加入するのはこれを妨げない)。

どうやらこの香港での通達の背景には、日本の金融庁が香港保険局に対して圧力をかけたという香港の複数の消息筋からの話だ。
日本当局は、海外の保険事業社にも圧力をかけているようで、香港の大手保険会社は、2018年の第一四半期を持って、日本に居住する全ての日本人の保険加入を禁止にすると社内決定したとの情報も漏れ聞こえる。

日本の金融庁は、日本からの流出が後を絶たない有利な海外保険を少しでも水際で阻止するという考えが伺える。だが日本国の法律は他国の法律までをも変えさせる効力は持っていない。
日本国内での行為については罰則を適用できても、他国内で行われる行為に罰を与える事はできないので、外交圧力による、日本人資産の流出と日本国内保険企業の保護政策での一連の動きが、今回の香港保険業協会の取った措置で、海外の保険業界に大きく波紋を広げている。

しかしながら、越境までして海外保険を購入する事について、誰がリスクを負っているのか?という問いに対する答えは、契約者自身と言えるだろう。

昨年10月に日本で導入されたマイナンバー制度も、本来は国の行政機関や地方公共団体での各種手続き等において、各機関が管理する個人情報の連携が必要な場合に、同一人物の情報の確認をスムーズに行うために使われるために施行された制度だが、同時に個人や企業の持つ流動資本の可視化にもつながる。

また同様に日本人が海外に持つ資産を国税庁に申告する国外財産調書制度なども導入し、日本人の持つ海外資産の管理と監視ができる体制も整いつつある。

また実質的に来年スタートするCRS共通報告基準(Common Reporting Standard) は、外国の金融機関の口座を利用した、国際的な租税回避を防止する国際協定だ。これは経済協力開発機構(OECD)が策定した、各国の金融口座情報を自動交換する制度で、海外にある自国民の口座情報(預金額、金利など)を自動交換するもので、既に100各国近くの国と地域が加盟を表明している。

この背景に対して複数の専門家にインタビューをおこなった。

複数の国での海外生活が長く、自身でも海外事業や投資等の経験を持つ、紺野昌彦氏はこう話す。


ー
早速ですが、紺野さん日本人の持つ資産の海外流出に関してですが、どのような背景があるのでしょうか?



紺野昌彦氏「
あくまでも一般に言われていることですが、基本的に大きな要因は日本の税率の高さがあるのではないでしょうか?また成長する新興国や金融の発達した地域での運用パフォーマンス、高いリターンを求める傾向もあるでしょうね。」

ー実際に高いリターンとはどのくらいのパフォーマンスなのでしょうか?



紺野昌彦氏「
銀行金利だけで見てみると、海外の銀行金利は日本よりも高いですし、保険に関しても返戻率も格段に高い背景があります。もちろん全ての国や地域ではありませんが、ファンドや不動産もそうでしょう。」



ー
海外の銀行金利は一体くらいの利回りなのでしょうか?

紺野昌彦氏「
例えばアゼルバイジャンやモンゴルなどの資源国は、銀行の定期預金の金利は14%から16%ほどあります。またお隣のロシアでも低預金の金利は10%台のものもあり、日本人の利用も多いと聞きます。インドネシアでも高額預金者は年率7%台ですし、カンボジアも米ドル建てで定期預金の利率が6%と高い金利水準となっています。
このように日本の低水準の銀行金利に比べ、海外では新興国系では銀行金利が10%前後も珍しくありません。(最新金利は各国銀行サイトを参照ください)」

ー
紺野さんのお話で新興国を中心として非常に高い銀行金利なのが理解できました。
では銀行金以外、例えば海外の保険と日本の保険に関してはどのような違いがあるのでしょうか?



紺野昌彦氏「
日本ではマイナス金利政策と、政策金利の引き下げにより、4月から保険の返戻率は大きく引き下げされました。これは支払う保険料の引き上げと、同時に保障額の引き下げにつながっているようです。

ー
実際に日本と海外の保険ではどれくらいの運用の差があるのでしょうか?



紺野昌彦氏「
最近では日本でもドル建ての終身保険がメジャーですが、これは30年の払込保険用に対して、返戻率が110%で利率は30年でわずか10%前後しかつきません。学資保険に関しては日本では軒並み元本割れと言われています。

香港の海外保険の予定利率は、低くても年3%前半の利率で、4%以上でも珍しくありません。日本と比べて極めて高いと言えるでしょう。
これは20年継続したとして、後の返戻率が200%にもなります。実はこの数字が海外では一般的でもあります。

これだと仮に日本の海外保険の加入の罰則過料が50万円(海外に赴いて加入した場合は過料に課されない)でも十分に資産増が見込めるので、現在の罰則規定はある意味大した意味もないかもしれません。」



ー
なるほど、これほどの違いがあれば海外に大きく資産を移動するのも納得できます。
では海外の保険と、日本の保険の返戻率の違いはどこから来ているのでしょうか?



紺野昌彦氏「日本の保険会社の場合は、日本の国債を購入せざるを得ない環境があります。安定という傾向でもあります。
その代わり保険会社は税制優遇措置など、政府の護送船団方式により保護されていう面もあります。これでそれほど利回りの高くない日本の国債が、預かり資産運用の40%前後占めているのも背景のひとつなのかもしれません。
また香港の税率は法人課税の最大課税が16.5%と低税率なのもあり、株取引の差益や為替差益などのキャピタルゲインは非課税という特徴も香港の保険が日本の保険と比べて高いパフォーマンスが出る理由でしょうね。
」

ー日本の税率との差は資産運用に大きく影響するということですね。

紺野昌彦氏「
そうですね。個人的な見解ではありますが、実際に香港やシンガポールは税率が低いです。またキャピタルゲイン、インカムゲインが非課税というだけでなく、日本の保険会社の国債の保有に位置するものは、例えば米国株のS&P500などの比較的成長率の高い物を軸足とし、よりパフォーマンスの高い運用に分散しており、そもそもの運用構造が違うようにも思います。」



ー
紺野さんから見て現在の日本と海外の資産の移動についてどのように感じていますか?



紺野昌彦氏「
以前より海外への資産移動はあったでしょう。以前は今ほど海外の情報には触れることはなかったのに対し、近年ではインターネットによる情報の氾濫や、これまで特定の人でないと触れることの出来なかった、多くの海外情報を誰でも手にする環境が生まれのがあるでしょうね。また海外への渡航者数も世界的に増加し、これもまた海外への投資案件に触れやすい環境となった事が言えるのではないでしょうか。

ー
情報のコモディティー化と人口の流動化が、このような海外資産の増加の加速となった背景と感じておられるということですね?

紺野昌彦氏
「そうですね。ですので、日本の対外資産(日本の持つ海外資産)対外資産残高は前年末比5.0%増の997兆7710億円と、8年連続で増えているのだと思います。
対外負債残高も648兆6580億円と、同6.2%増加したのではないでしょうか。
それに対して国としての把握や、一定の制限など新たなルール作りが必要になったのでしょうね。
もちろん、この数字は海外預金や保険だけではありません。
それは個人の資産の運用の一部で、多くは企業の進出であったり、米国債であったりと、この巨額に含まれる内容は多岐に渡ると思います。
最近では財務省のサイトで内訳が詳しく見ることができるようになりましたので、確認してみても面白いでしょう。

大きく言えることは政府が制限を設けても、日本の対外資産は増え続けるだろうということです。

ーと言いますと?

紺野昌彦氏「
原則的には、今回の日本政府の圧力があったとしても、過料は50万円が上限であり、海外に日本人が自身に合った保険商品や投資商品を探して入るのは違法とは言えないからです。
また国外財産調書制度に基づいて申告して、日本国内の銀行に預金として預けるよりパフォーマンスが高いわけですし、そもそもクリアにしておけば違法でもなんでもありません。
また国内市場も今後大きく成長する要素も少なく、今後発展する新興市場やよりパフォーマンスの高い投資に比重が置かれるのは、利益を追求するという観点から当然の理だと感じます。」

ー
先ほどの日本の対外資産は、世界的に見て多い額なのでしょうか?少し基準わからなく判断が難しいですね。


紺野昌彦氏「
そうですね。数字だけ見るとそうでしょう。
当然トップは米国なのですが、日本に次いで純資産額が多いのは中国で、210兆3027億円で日本の3分の1と考えるとイメージしやすいのではないでしょうか?あくまでも公表されている数字ですが。
中国はGDPで日本を抜いて世界2位に君臨しながらも、対外純資産は日本の3分の1ですからね。

記者
思った以上に中国の数字が小さいのには驚きました。

紺野昌彦氏
あくまでもこれは公表上の数値ですが、中国の経済発展は大きくはここ10年でスタートしたのも理由でしょう。
また中国ではそれ以前は、海外への進出する理由もなく、内需で成長できる環境もあったからだと思います。
近年になり内需も飽和状態な部分も出てきたので、ここ数年で中国国内の資産を海外に出すということになったからではないでしょうか。今後はますます増加するのではないでしょうか?

」

ー
世界的な潮流となっているということですね。
中国でも海外への資産の流失は結構話題になっていますね。

紺野昌彦氏「中国でもこの海外への資産の流出は問題となっているのは、一部の報道でもよく見ますよね。中国人の国外に持ち出せる現金の制限が設けられています。昨年は中国で国外での爆買いなどでも抑制措置は取られました。
先ほどの保険などでも同じであり、昨年には中国人が香港などの中国外の保険に加入するのは、まず初めに銀聯カードが使用禁止となり、中国人は銀聯がダメならとクレジットカードに走りましたが、続いてVISAなどのクレジットカードでの中国国外保険への加入も禁止となりました。
大きく抑制を始めている印象が伺えますね。
日本に先立って米国のソーシャルセキュリティーナンバー制度(日本のマイナンバー制度の米国版)が始まったから一気に世界的にこのような制御、管理が加速した背景が大きいと感じています。今では米国人は海外で銀行口座を作ることも難しいですからね。
何れ日本人も同じような制限下になるのでは?と思っています。

ー
最後に実際に紺野さんはご自身でも海外投資はされているのでしょうか?

紺野昌彦氏「
私は、海外でのビジネスは12年以上昔からやっており、当時は今ほど日本から海外への資産移動や送金は難しくなく、制限もほとんど設けられていませんでした。
現在では私自身が海外に居住地を移して6年目になりますので、日本国内で新たに設けられた多くの制度の対象外ですので、そこまで気にせずに海外の保険やファンドでの運用はできますからね。
今以上に色々な制限も出てくるでしょうから、資産の一部は海外で運用し、一部は外貨でインカムを得るのが一番いいことかのかもしれませんね。かつて円高だったころに、通貨のポートフォリオの重要性が指摘されていました。まさにそんな感じではないでしょうか?
この先どこまで円が通用し続けるかもわかりませんしね。」

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■プロフィール

紺野昌彦(こんの・まさひこ)

1971年尼崎生まれ、バンコク、香港在住。
高校時代に起業しこれまでに30以上の事業を起こし、2014年には年商11億円まで自社を成長させ日系上場企業にバイアウト。また2002年から2010年の間に複数の選挙プロモーターとして当選実績を持つ。現在は香港で投資会社の運営を行う傍ら、外資系上場企業の役員、顧問などを務める。
紺野昌彦個人で運営する投資関連のブログに定評がある。

情報提供元:News Lounge
記事名:「香港当局に日本の金融庁が圧力、日本居住者の保険加入停止 紺野昌彦氏に聞く